山口さんのモロッコ紀行−14

1999-Oct

●男の憧れ

(ある朝目覚めると、バヒーヤ宮殿のことを思い出しました。多分ここですが、間違っている可能性もあり ます。その時はすみません。一番いいのは、自分で行って確認することですね!)

 朝の魚を連想させる魚のムニエルの昼食を食べた後、午後一番に訪れたのはかつての王宮、バヒーヤ宮殿である。

 朝から危うげに持ちこたえていた天気はついに崩れ、バスの外はざーざー降りだった。だが、傘をさす地元 民の姿は殆ど見られず、急ぎの人は早歩き、急がぬ人はやむまで街路樹の下にひしめいて雨宿り。そして誰 もが、久々の雨を喜んでいるようであった。

 さて、バヒーヤ宮殿はさすがは王の住まい、広大で美しい建物だ。実は、モロッコの建築様式は、スペイ ンのものと酷似している。モロッコとスペインは、歴史的にイスラム教勢力とキリスト教勢力の境目にあた るため、双方の文化の融合地点なのである。サンタ氏はスペインの歴史が最も得意分野だということで、類 似性や歴史についての話はなかなか面白かった。

 さて、ではここで問題。

************************************************

<問> モロッコでの家づくり、一番大切なことは何?

1.暑さ対策
2.寒さ対策
3.乾燥対策

<ヒント:バヒーヤ宮殿の例>

a.天井:高さ10m。超豪華モザイク模様入り。
b.壁:厚み1mの石造り。モザイク模様入り。
c.窓:小さ目。

 では、シンキング・タイム。

(ちっちっちっちっちっちっ・・・ピー、Time Up!)

<正解>

 夜、冷たい空気を室内に入れます。昼は部屋を閉め切り、冷たい空気が外に出ないようにします。
 ヒントについては、それぞれが次の役割を果たしています。

a.天井が高い:部屋を大きくし、冷たい空気をたくさん蓄えておく
b.壁が厚い :室内が日射により暑くなるのを防ぐ
c.窓が小さい:室内外の換気がしにくいようにする

 従って、正解は「1.暑さ対策」でした。

************************************************

 バヒーヤ宮殿の建物は平屋が中心。中央に噴水のある50mプール大の中庭は、周りを回廊で囲まれてい る。この中庭こそがハレムの中心で、周囲の建物には2号さんから200号さんに至るまで、みんなで仲良 く(?)生活していたのだそうだ。

 ところで、王様にたくさんの奥さんがいたのは、ただ単に女だーい好きだったからではない。戦争未亡人 をを養うという目的があったのである。また、愛情は全員に均等にかけるというのが原則だったので、お気 に入りのところにばかり通うことなどはもってのほかだったそうだ。

 世の男性陣が憧れを込めて口にする「ハレム生活」、結構気苦労が多そうである。女たった2人の嫁姑問題 にすら対応しきれない人は、やめておいたほうがいいだろう。

 ここで、ちょっとした変化があった。それまではどこか固さのあったサンタ氏とムスタファ氏が、ハレム の話ですっかり意気投合したのである。

 かつて見たことのない情熱を込めてハレムについて語るムスタファ氏。深く何度も頷き、通訳も忘れて聞 き入るサンタ氏。その後の二人の様子は、旧来の親友のようだった。

 ハレム好きは、やはり世界共通・男性の性(さが)なのである。



●マラケシュのスーク

 午後はスーク(市場)を抜けての移動が中心だった。スークの店は高さ5m位の縦長の建物の壁一面に商品 を並べているケースが多い。ちょっと関取がシコでも踏めば、あたり一面お菓子や糸巻きの雨が降ることだろう。

 斬新なのは靴の売り方。のれんのように、紐で天井からぶら下げている。目の悪い人にとっては見やすく、 なかなか良い方法である。日本人は近眼が多いので、2000年代には銀座でも心斎橋でも天神でも______ (自宅近所の商店街名を入れよう)でも、この方法が主流になることは間違いない。

 スークのメインストリートには、木製のアーケードがついている。午後は雨だったがアーケードがあるか ら安心、と思ったら大間違いだった。きっちりと塞いでおらず隙間だらけなので、雨が降り込んで来るのだ。 その上、大きな水滴がぼとぼと垂れては首筋を直撃する。結局われわれは、狭いスーク内を傘をさして移動した。

 地面は土か石畳で、坂道も多く、水たまりや即席の川ができていた。足元を見ながら歩きつつ、こんな時 一番重宝なのはやはりフード付のジュラバだと思わされたのであった。



●イビキ特効薬(香辛料屋1)

 スークを抜けてたどり着いたのは香辛料屋である。狭い入り口から入って細い階段を2階に上ると、10 畳程の部屋に通された。壁には天井から下に向けて3段の棚が造り付けられており、自家製梅酒サイズ大の 大きめのビンに入った香辛料が、隙間なく並べられている。

 まずは、幾つかのお勧め商品について、内容と値段の紹介があった。説明をしてくれたのは、ベルベル人 顔(個人的にはベルベル人=なかなか男前という位置付)の50歳くらいの白衣の店主。彼の説明をムスタ ファ氏が英語に訳し、それをサンタ氏が日本語に訳すという手順だ。

 カレー粉(辛・甘)をはじめとする香辛料色々、ミントティー、香水、化粧水、足の裏用軽石。マジック 口紅は、「これは色が変わってすごいでしょう」と得意げに持ち出されたが、日本では100円ショップで も買える品物、感心する人はいなかった。

 香辛料は、10×10弱のビニール袋入りで、若い助手がお客一人一人に匂いを嗅がせてくれる。品物は 1つが大体200円〜で、3つ買うと1つサービスというのがお決まりである。

 ところで、香料の一つに、「これを嗅げば必ずイビキが治る」というものがあった。これもガーゼに包ん だものを助手が客の鼻に押し付けてのお試しがあったのだが、嗅いだ瞬間、皆「ぶふっ」とむせた。ほんの 半嗅きでもぐぐーっと鼻に抜ける、何とも形容しがたい異臭だったのである。

 遠慮したがっていた人も少なからずいたが、結局全員がその洗礼を受けた。ガーゼが鼻に当てられた瞬間 だけ息を止めても、助手はちゃんとそれを察して「ほらほら、吸え吸え」と目で訴え、吸うまでは鼻にぐい ぐい押し付けるからである。サービスというよりは拷問であった。誰かへのお土産にはともかく、自分用に 買った人はまずいないだろう。

 モロッコ帰りの同居人がいる人で、深夜、正露丸と酢漬けのくさやの混じったような臭いで目覚めたこと のある人は、モロッコ製いびき特効薬の治療を受けていると思って間違いない。それがいやな人は、枕を高 くするか、横向きで寝るか、薬局でいびき防止器具「(商品名現在調査中)」を買おう。


次へ