山口さんのモロッコ紀行−13

1999-Oct

●クトゥビアの塔

 次に訪れたのは、マラケシュのシンボル的存在、クトゥビアの塔。フナ広場の西に位置し、元々はモスクの一部と して作られたが、今では塔を残すのみだ。高さは65m、4面がそれぞれ異なる装飾を持ち、ムーア様式建造物の傑作と言われている。

 松田聖子の往年のヒット曲「マラケッシュ」の、「高い塔に青い月が昇るわ〜」というのは、このクトゥビアの塔 だと思われる。ただ、あの歌詞の「マラケッシュ、迷路の街〜」というのは少々疑問だ。一般に、迷路の街はフェズ である。聖子ちゃん、歌う前に自分の歌の内容は一応確認した方がいいのではないか? と、離婚直後にラブソング を歌う彼女に言っても無駄な意見かも知れないが。

 ところで、塔に向かう途中、きつねどん兵衛のカップを逆さにした形の白帽をかぶった、ニカウさん似の現地人が いつの間にかツアーに合流していた。ムスタファに親しげに話しかけている様子からすると、現地ガイドにまず取り 入る物売り、あるいは友達らしい。

 後で、彼はマラケシュ担当の補助ガイド、オマール氏だと紹介があった。彼は大変良い家柄の出の、世が世なら聖 人として崇められるべき人物だそうだ。白い帽子は「メッカへ巡礼した」という印で、貧しくてメッカ巡礼になど行 けない一般人にとっては、白帽は尊敬と羨望の的だという。  ・・・道理で、高潔かつ気品が滲み出る顔立ちだと思った、やっぱり。

 ところで、日本では、寺で僧が経を唱える。モロッコでは、モスクでイマームがアザーンを唱える。  日本人に宗教がなじみ薄いのは、この語韻の暗さに原因の一環があるのではと思われた。



●忍・大和魂

 次の見学地は、フナ広場の南側の史跡地区にあるサアード朝の墓。大勢の人で賑わう市場の中にあり、コウノトリ が巣作った煙突のある建物の横の、畳1枚大の小さな入り口から入る。くねくねした細道を抜けると、周りを高さ1 0m程の土壁と建物に囲まれた庭園に出た。これらの建物が霊廟で、代々の王が眠っている。

 土壁とタイルとモロッコ杉でできた霊廟は、派手さはないが凝った装飾が施されていた。建物の奥に王の棺桶大の 墓、両隣に家族の小さめの墓、建物の出口に向けて家来や使用人のさらに一回り小さい墓がある。いや、よく見ると 足元中墓だらけで、使用人の墓は踏まれ放題だった。墓までがこんな待遇とは、使用人はお気の毒な話である。

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  Coffee  Break

 今回のネタは少々長いのでこのへんでお茶でもどうぞ

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 ここは観光客が非常に多かった。かつ、外国人のツアーは狭い霊廟入り口の前で現物を見ながらじっくり説明をす る。外国のツアーは日程がゆったりしていて、急ぐ必要がないせいであろう。その結果、長い長い待ち時間を持て余 した人々の騒ぐ声で、周囲は大分騒がしかった。

 一方、日程が窮屈な日本人ツアーは、待ち時間のロスを実物を見る時間を削ることで補わねばならない。従って2 0分待っては20秒実物を見るというパターンになってしまった。が、健気にも大して文句も言わずに待っている。  この時、「4つのあ」の提唱者でありながら、一番じりじりしていたサンタ氏は言った。

「日本人は静かに待ってえらいもんだ」

 これまでのバスの中の話だと、サンタ氏の日本人評はかなり辛口であった。「日本人は挨拶の声が小さい」「日本 人は自分の意見を言わない」「日本人はいつも黙っている」等々。サンタ氏の話は徐々に、街の説明よりも「海外派 遣前社員研修その2/日本人の短所と克服法」になりつつあった。そんな時に若干見直してもらえたようなので、内 心大いにほっとしたのである。

 ところで、われわれの前に並んでいたのはフランス人ツアーだった。その最後尾に、そのツアーの現地人補助 ガイド氏がいたのだが、客達の輪に入れずによほどヒマだったらしい。先頭にいたU嬢、わたし、彼は、いつの 間にかすっかり話し込んでいた。

「うちのお客さん、すっかり自分たちだけで盛りがっちゃって、もー勝手にして下さいという感じですわ。  日本といえば、ホッカイドー、わたし良く知ってるよ。こんな形でしょ(それは全然違うぞ)。

 今日の天気?大丈夫大丈夫、今日はもつよ。明日は雨かも知れないけどね」

 この地元民のありがたい天気予報は、1時間後、8ヶ月ぶりという記録的な雨(しかも豪雨)によって、残念なが ら裏切られた。

 だが所詮、旅の出会いは ケセラセラ
   かりそめものさ ケセラセラ
     楽しきゃいいさ ケセラセラ

 自らの仕事を完全に忘れてわれわれを楽しませてくれた彼には、いつか幸せになってもらいたいものだ。  そして、「街の観光だから雨でもまあいいか」と、この時はお気楽にも考えていたのである。



●アラビアンファッションショー

 行ったはずだが記憶も写真もないバヒーヤ宮殿の次に訪れたのは、1階が民族衣装、2階が民芸品の店。  ジュラバ(スターウオーズのオビワン・ケノービの服)は、モロッコでは老若男女を問わず、一般的に着られている。

 一番多いのは、フード付きの茶系の無地のものだ。 フード人気は日除けにも雨天にも役立つためだろう。 茶無地人気は、汚れが目立たないのと、コーヒー牛乳色の川で洗濯しているためと思われる。

 この店は観光客用らしく、並んだ商品は色、素材とも多種多様で、手縫いらしい刺繍入りのものが多かっ た。形は、袖無しやフード無し、丈は臀部が隠れる長さのものから足元までのものまである。

 服をひとわたり見た男性陣が上の階で靴やカバンを見終ってさらに時間つぶしをしている間、女性は買う 人も買わぬ人も試着しまくった。

・これぞ元祖!土色:スターウオーズ風
・一見、上着付フンドシ:アラジン風
   長い裾をズボン状になるよう足にからませ、最後は肩にかける。
・ねずみ色:ネズミ男風
・生成りの麻地に青の縦縞:インテリ風
   ムスタファ氏が着ていたので、多分。
   生成り=>川で洗濯しない=>上流階級、と見た。
・白いズボン+黄緑の上着・竜の刺繍入り:中国皇族風
・黒地にまばゆい金刺繍:美川憲一風
・蛍光ピンク:アラビアンキャバレー風(実在すれば)

 服と揃えて靴やスカーフも買った人もおり、翌日からは衣装を着た人は写真モデルに引っ張りだこだった。チ ップ不要、本物よりも華やかで愛想もいいときているので、なかなか重宝されていたようである。

 値段は大体値下がりして4、5千円。町中のものと比べると確かに品物はいいが、多分観光客価格だろう。ほ とんど同じようなものがここでは5千円、町中では千円だった。両替の関係により、円で買うなら千円が底値と 思われるので、千円は結構お買い得だと思う。

 なお、服の柄はほとんどが無地で、あとは縦縞があるくらいだった。チェックや花柄やヒョウ柄や迷彩柄のも のを作れば売れるかも知れない。まあ、川で洗ったら結局最後は皆同じ、茶無地になってしまうが。


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