山口さんのモロッコ紀行−10

1999-Oct

●ババは誰の手に

 お金と言えば、こちらのお札は汚い。特に、20DHは使用頻度が多いせいか、汚れ方も突出している。  そのひどさたるや、牛糞にまみれていたのを洗ったのち再度泥水につけ込んだかの如く、真っ茶色でしわ しわでヨレヨレである。財布に入れるどころか、素手で触わるのにも勇気が必要だ。

 こう思うのはきれい好きの日本人のみならず、モロッコ人も同じらしい。ウェイターなども汚い札は爪先 で挟んで持ち上げ、お釣りの時には真っ先にそれをくれる。

 食事時の飲み物代はテーブル毎にウェイターが集金に来るのだが、この時は勝負時である。隣の人が 「いやだなー、汚いお札しかない」などとつぶやいていたら要注意だ。 そのダーティな札は、おつりとして自分のところに廻ってくる可能性が高い。

 そんな訳で、食後のテーブルでは、「いかなるタイミングで支払をすれば汚札を手放せるか」という駆け 引きが、日々繰り広げられた。丁度「ババ抜き」と同じである。

 それにしても、あの汚さで現役ならば、モロッコは偽造天国だろうと思った。 案外、きれいなお札ほど疑ってかかったほうがいいのかも知れない。



●ハッサン2世モスク

 ところで、カサブランカの名の由来は、その名のとおり「白い(ブランカ)家(カサ)」だ。かつて、海を望 む海沿いに建っていた白い家を船が目印にしていたことから、その名がついたという。

 現在は、海沿いに、緑と青のモザイク模様が映える、美しい白亜のモスク立っている。これは1993年に完 成したハッサン2世モスクで、モロッコ最大級のモスクの一つだ。建物内部に2万人、モスク前の広場には8万 人が収容可能で、高さ200mのミナレット(尖塔)は市内のどこからでも見える。その隣に図書館も建造中だそうだ。

 イスラムの大きなモスクを見る度に驚くのは、御影石を広場に敷き詰めたり、気の遠くなるようなきらびやか な装飾をふんだんに施したりと、建造物に莫大な費用をかけていることだ。イスラム圏は貧しい国が多い印象が あるのだが、宗教に関しては経費は度外視なのだろうか。国民も、よくぞ文句を言わないものである。

 だが後日、ムスタファがこんなことを言っていた。「国王は27個の別荘を持っています。でも、国民は それを知りません」 つまり、国民は国家予算の使われ方を知らされていないというだけのことか。

 それにしても、なぜムスタファはそれを知っているのか?実は王族とか?うーむむむ、 もっと仲良くしておくべきだったかも知れない。



●恐怖のカリフラワー

 今回は全食付のパックツアーで、食事のパターンはいつもほぼ一緒だった。スープ、副菜、主菜、デザー ト、パンである。 スープは、野菜だったり魚だったりしたが、大抵は味が薄く、「おかゆもどき」という点で大差はない。 塩は自分でふる、これが鉄則である。副菜はキッシュや野菜サラダで、無難な味。主菜は、初日の昼は魚の ムニエル、夜はローストチキンだった。ツアー中、いつ出るかと密かに恐れていた羊肉に遭遇しなかったの は、実に幸いであった。デザートは、果物、シュークリームやプリンなど、これも無難な味。

 パンは、フランス文化圏だから当然フランスパン、と思いきや、そうではなかった。朝はフランスパンや デニッシュが出るが、昼と夜は大抵、厚さ2cm、直径30cm程度の丸いパンを扇形に切ったものが出さ れた。あっさりした味はピザ台を彷彿とさせ、出来立てはなかなかいける。 ただ、古くなったら固くなってフリスビーにしか使えなくなりそうなパンだった。

 さて、実はこの初日の夕食がツアー中で一番不評だった。問題となったのは主菜で、ローストチキン、茹 でたズッキーニとカリフラワーの盛り合わせである。 ローストチキンの油気がまるでなく、バサバサで味 が無かったのはまだいい。くさりかけた苦瓜の味のするズッキーニ、これもまだ我慢できる。だが、とろけ かけたカリフラワー、これが究極にまずかった。一体何時間茹でたのか、全く味も歯ごたえもないのである。 素材の味が無くなったら、後でいくら調味料を加えてもとても食べられるものではないということを、この 時初めて思い知った。氷に醤油をかけてもおいしくならないのと同じだ。

 この日、主菜の消費率は1割にも満たなかっただろう。ポリバケツ3倍分は残飯が出たかと思うと、実に もったいなく、申し訳ない。と思ってみても、やっぱりあれは食べられないが。

 他のものは結構おいしかったので、モロッコ人があのカリフラワーを好んで食べているとは信じ難かった。 恐らく、新米コックのデビューの日だったのだろう。クビになる前に、今後の検討を期待しよう。


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