山口さんのモロッコ紀行−9

1999-Oct

●水売りおじさん

 午前中は、カサブランカ市内観光である。  最初に訪れたのはモハメッド5世広場。老若男女こもごもの大勢の人と、間に地面があるように見えるほどの大量 のハトで賑わっていた。人々は日本人観光客を珍しげに眺めている。

 その一角に、派手な赤い民族衣装姿の男性が数人たむろしていた。色とりどりの飾りの付いたしゃぶしゃぶ鍋型の 赤い帽子、帽子同様赤い服にたくさんぶら下げれらているのは、ぴかぴかと金色に輝くおりん。肩からは、メダルの たくさんついた黒光する羊革のかばんを下げている。

「みなさん、あれがモロッコ名物の”水売りおじさん”です。あのかばんに水を入れていて売っていて、金のカップ で飲ませてくれます」

「水は1杯いくらです?」

「いや、実際は水は売っていません。写真用のモデルです。写真を撮ったら5DH払って下さい」

 確かに、飲料水を入れるにしては、あのかばんは不向きそうだ。羊臭そうだし、生臭そうだし、何より不安をそそ るのはカバンの黒い色。

「あのかばんは、黒く染めているんですか?」

「いえいえ、長年の汚れで黒いんですよ」

 それで確信した。あれは絶対に飲めまい。

 しかし翌日。あのインテリのムスタファ氏がタダで飲ませてもらっているのを目撃した。 なんだ、本当に飲めるのか。また、牧場を通ったときに黒い羊を見かけた。かばんの素材は、あの黒い羊だったのではないか?

 だがまあいずれにせよ、あの中身がまともな水かどうかは疑問だ。あののんきな仕事ぶり、 水売りと言うよりは「油を売っている」感じだった。

 観光客は、2リットル100円のミネラルウオーター「シディ・アリ」を飲んでおくのが無難でよいだろう。



●両替の話

 モロッコの通貨デュラハム(DH)は日本では手に入らないので、両替は現地ですることになる。10D Hまでが硬貨、20DH以上はお札だ。

 海外旅行で両替をするとき、「どこで両替すればレートがいいか」と悩んだ経験がある方もいると思うが、 モロッコにおいては心配ご無用。モロッコでは、国によってレートが定められているため、銀行でもホテル でも空港でも同じなのだそうである(サンタ氏の言なので確証はないが)。

 ただ、そこにも1つ落とし穴がある。僻地に行くと最新情報が入らないため、1週間前のレートで交換し ていることがあるのだ。従って、レートがいいときは都会で、悪くなってきたら田舎で交換すれば、多少は 得できる可能性もある。まあどちらにしても、その差は微々たるものなので、それを実行したら交通費分も 取り返せないとは思うが。

 ところで、レートが同じでも、個人的にはホテルがお勧めである。銀行よりもホテルの方が手際が良く、 銀行はホテルの1.5倍程余計に時間がかかっていたようだ。わたしは2回両替したが、どちらもホテルで やってもらった。

 1回目はツアー初日。モロッコに到着したの日は深夜で時間がなく、空港での両替はできなかった。従っ て、翌朝は両替希望者がホテルのフロントに殺到し、10人程でお金は無くなってしまった。

 そこで、両替のために観光の前に連れて行かれたのが、「カサブランカ」であまりにも有名なハイアット ホテルだったのであった! さすがはハイアット様、モロッコらしからぬ手際の良さと豊富な財源で、 約40人分の両替を難なくこなしてくれた。待ち時間もゴージャスな内装に見とれていられるので、飽きることもない。 ハイアット、両替のためだけに行くのであっても、たいへんお勧めである。

 2回目はワルサザードのホテル。砂漠のそばの大変辺鄙な場所にあるので、レートはもちろん1週間前の ものだった。 そこで両替したとき、フロントレディーが言った。

「−−−−(ペラペラ)、コインプリーズ!」

 あれ?手数料がいるんだっけか?それは両替の時に引かれていないのかなあ?  不思議に思いつつ手持ちのコインを出すと、「もっと」と言う。そこで「札はあるが、コインはもう無い」 と彼女に告げると、「食後にお金が崩れたら持ってこい」とのこと。

 へえー、後でいいなんて、度量が大きいなあと感心していると、次に両替をしたSさんが言った。 「あららー、それは手数料じゃないよ。フロントにコインが無いからくれって言ってるだけだよ。払う必要 はないんだよ」

 何〜!? 要は、タカリだったのか? ま、仕方ない、明日の分のチップのコインが無くなっただけだ、 とその場は諦めた。 と、そのSさんがお金を数えながら言った。

「あれっ?なんか多いな」

 よく数えても、数千円分多くもらっている。「フロントの間違いですかねえ?」

「いや、でも普通考えられないでしょう」

 その場にいた数人でちょっと考えたあげく、Sさんがふと思い当たった。 「そうか、10ドルと20ドルを間違えて出したんですよ、きっと。いつもあまり確認しないから」  なるほど、まあそんなところだろう、と一同は納得した。

 だが夕食の時のこと。サンタ氏が大声を張り上げた。「みなさん!みなさんの中に、両替のときに多くもら った人はいませんか?フロントの人が間違えて渡してしまったんだそうで、彼女が弁償しなきゃならないそ うです。心当たりのある方、返してあげて下さい!」 気のいいSさんはすぐさま手を挙げてお金を返し、 この1件は落着したのであった。

 良かったねえ姉さん、間違えたのがSさんで。わたしだったら・・・いや、人のことより自分をあてはめてみ よう。 この1件に関しては、4つのあの法則「あてしない」は大当たりだった。今更言うまでもないが、両替をする ときは、必ず自分で金額を確認すべきである。

 その結果多かったら? それはあなた次第だ、ふっふっふっ。


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