山口さんのモロッコ紀行−7

1999-Oct

●ライバル出現

 さて、飛行機で隣り合ったのは、わたしと同様一人でツアーに参加したOLのAさん。 彼女は当初、もう少しランクが上で値段も5万円位高いツアーに申し込んだのだが、 20人の定員に達していたために断られ、このツアーに参加したのだそうだ。

「それがね、さっき見たら、そのツアー12人しかいないの。団体でキャンセルがあったみたい。 あのテキパキした感じの女の人、あの人が添乗員さんみたいよ」

44人のサンタツアーとは大分様相が違う。しかしこれが5万円の差。安ツアーには安ツアーの楽しみ方がある! 一方的に向こうをライバル視することで、じわっと浮かんだ羨望の気持ちを振り払ったのだった。

西へ西へと飛んで約10時間後。飛行機はアムステルダムに到着した。 カサブランカ行きの搭乗券をもらうため、サンタとテキパキ女史は、一緒にカウンターに並んでいる。

その前、搭乗手続きのためにツアー客からパスポートを回収する際、サンタは言った。 「みなさん、海外ではパスポートは命の次に大事です!絶対、絶対落とさないように!」 確かにその通り。しかし、その大切なパスポートを、彼は集めたはしからスーパーの白いビニール袋に無造作に入れ、 最後には持ち切れなくなった分を景気よく床にぶちまけていた。

そうだ、あれも「当てにするな」の修行の一環か何かに違いない。 自分自身を説得すべく苦心している間に、テキパキ女史は手続きが終わった。 ライバルツアーの乗客たちは、6時間のトランジット時間を楽しむべく、搭乗券を受け取って散っていった。

一方、われわれはその後1時間、その場に立ち尽くしたまま、サンタが手続きを終えるのを待たねばならなかったのであった。


次へ