山口さんのモロッコ紀行−3

1999-Oct

見覚えのある顔

 並んだ人々の名前をチェックし、スーツケースに荷物札をつけてくれたのは30前後のスーツ姿の礼儀正 しそうな青年。ははあ、彼が添乗員か。添乗員というよりホテルマンだ。

 以前行った、楽しかったトルコ旅行の添乗員M氏も同じような印象だったのを思い出した。幸先がいい、 楽しい旅が期待できそうだ。

 ところでわたしは人の顔を覚えるのが苦手なほうなのだが、カウンターの受付担当者を見た瞬間、その面 相は買ったばかりAQドーナツタイヤの溝より深く、大脳皮質に刻みつけられた。

 こ・・・この顔は・・・

 スイカのように大きな顔、細いたれ気味の目、重役の椅子のようにどっしりと鎮座した幅の広い鼻、そし て何より特徴的な白いあごひげ。

 これは正しく大黒様、いやサンタだ!いやいや、サンタにしてはちょっと鋭すぎる眼光はどちらかというとサタンか?  無意識にその顔に見入ってしまい、種々の説明も新品の土管を流れる水のように聞き流してしまった。 「一目惚れ」という現象は小説と映画の中のフィクションだと思っていたが、一目で忘れられな くなる顔というのは実在するらしい。

 受付が終わると間もなく再集合時間となったが、ツアーのメンバーはまだ全員集まっていなかった。予想 では20人位かと思っていたのだが、実際はかなり人数が多く、手続きが遅れていたのだ。

 そして約束の時間から遅れること20分。

「はい、モロッコ旅行の方、集まって下さい!」

 わたしはゆで卵を丸呑みにしたかのようなショックを受けた。このダミ声・・・現れたのは、ホテルマン 氏ではなく、サンタだったのであった!


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