田崎さんのパリ紀行−20

1999-Nov

パリでナンパ?


帰りは、今度こそ「ホテル〜空港はバスで送迎」の文句に偽り無く、空港まで送ってもらう。 30余名の客を乗せたバスは、現地係員とともにシャルル・ドゴール空港へ向かった。 空港までの約1條ヤ(はなかった)。これでパリともお別れだ。

筴洋とパリの風景を眺めるわたしを余所に、O家の面々は税関審査の説明を聞くのに忙しかった。 1本700円のワインを買ったわたしとは対照的に税関に申請が必要な高額商品を購入したらしい。 きっと立派なパリ旅行の記念になることだろう。

いままでの海外旅行で、変なものは数多く買ったが、税関に申請するような買い物をしたことがな いわたしとは大違いのO家なのだった。

そうこうする内にバスは空港の敷地内に突入していた。敷地内とはいえただの野っ原が広がってい るだけでとても空港とは思えない。こんなのどかな風景を見ていると、ここに野ウサ ギが生息していて、空港内のレストランで出されるウサギ肉は、そのウサギを狩って自給ゥ足(!) しているという話も納得してしまう。(もっとも真偽のほどは定かでない)

やがてバスはシャルル・ドゴール空港の第2ターミナルへと到着した。 30余名の客の内、降りたのはわたし達を含めてわずか7名。現地係員はその他の客と一緒に第3 ターミナルへと汲チていってしまった。結局、諸闡アきは自力で行うのだった。

第2ターミナルのロビーは閑散としていた。日差しが明るくロビーを照らし出しているだけに、そ のまばらぶりは寂しいほどだ。真っ昼間に飛行機に乗る人は少ないんだろうか。 それとも第3ターミナルとかには人が溢れているのか?

それはともかく、O家の三人は、まず第一関門である税関手続きに向かった。税関に用のないわた しは、とりあえずトイレに向かう。そしてトイレからロビーに戻り、O家の面々を探 す。その間、5分もなかっただろう。それなのに、O家のメンバーには異変が起きてい た。ロビーで手を振るメンバーが四人に増殖していたのだ。

一体、わたしがトイレに行っている隙に何があったというのか? 楽しげに話している見知らぬ彼女は何者なのか?果たして、

「こんにちわー。Hと言います。成田までご一緒させてもらうことになりました。よろしく」

と朗らかに挨拶をされたHさんは、聞けばO家とも初対面の方だった。 成田まで一緒の便なので、わたし達と一緒に行こうということになり、わずか5分の間に旅のお仲 間ができたいうわけだった。

Hさんは非常に気さくな人で、帰りのわずかな時間だけだったが、楽しい思いをさせてもらった。 このHさん、一人旅ではなく、友達と二人のパリ旅行だったのだが、友達と日程が少々合わず、そ れぞれ一日違いで渡仏・帰国と相成ったらしい。

友達の方はパリは何度か来たことがあるがHさんは初めて。それで一人で帰るというのだから、結 構、剛胆な人かもしれない。

こうして旅仲間を一人釣り上げたところで航空券の引き替えのためにエールフランスのカウンター へ向かった。だが、当のカウンターに人はいない。

フライトが夕方なので、どうも時間が早すぎたようだ。カウンターの上のテレビ画面を見ると1 間後ぐらいには開きそうだった。d方がない。とりあえず休憩することにしよう。 がらごろとスーツケースを転がしながら、一行は通りすがりに見掛けたカフェへと入ったのだった。



マキシムでの敗北

1900年代風のカフェの名前は、「マキシム」あのマキシム・ド・パリ(確かパリの高級料理店 だったと思うのだが)の支店かだろうか?店は比較的空いていて、スーツケース找でも何 とか入ることが出来た。

立ち働くギャルソンはおじさんか可愛い感じのおにーちゃんまで、結構謔闡オっていたが、メニュ ーの方ははホットディッシュもなく、簡単に出来そうなものがほとんどだった。

考えるのがめんどうになったわたしはギャルソンにお薦めのメニューを尋ねた。そして彼が指さし たのはスモークサーモンだった。

「んー、サーモンねぇ。よし、それにしよう」

「じゃ、わたしはハムの盛り合わせね」と友人Ocる三人はサラダにしたようだった。代表で妹さんが注文する。

「えーと、このサラダを三つ下さい」
「え、ちょっと待って」

妹さんの注文をわたしはすかさず止めた。

「これ、値段が高い(日本円で1000円超えていたと思う)から、きっと量が多いよ。Oつは多くないかな」
「あー、そうか。じゃあ、サラダは二つでお願いします」

わたしの(おそらく妹さんも)脳裏には、アンジェリーナの菜っぱの山を代表とする、どうしよう もなく量の多い食べ物の数々が思い出されていた。そして、学習したのだ。人数分頼むと死ぬ気で食 べる羽目になる、と。

5人で4M。これまでの経験上、一皿1.3から1.5人前が 普通のようなので(アンジェリーナのモンブランは二人前はあったが)これは妥当な線のハズだ。 だが、だがしかし。

フランスはそんなに甘くなかった。空港だからお高めの設定なんだろうと思っていた わたしは、その値段がきっちり量に反映されるとは露ほども考えなかった。 サーモンもハムも結構な量があったが(何しろサラダ付きだった)これは食べきれない量ではなか った。迷、この二皿は完食した。

問題はサラダだった。サーモンやハムには「おおーーっ」と声を上げる 余裕があったが、サラダの登場に至っては絶句するしかなかった。 大きなボウル(直径24センチ)いっぱいに詰め込んだ菜っぱを大皿(直径30センチ)にひっく り返したような、R盛りのサラダが二つ、運ばれてきたのだった。

これを本気で一人前だと考えているのか?!しかも、菜っぱだけならまだしも、いままで食べ たサラダと同じく、チーズやナッツがごろごろ入っている、非常に食べ応えのあるサラダなのだ。

「は、は、はははは」

R盛りのサラダを前に、もう笑うしかなかった。

だが、驚異の出来魔ヘ、この後起こった。食べても食べても食べても食べても(以下略)、 減らないサラダを食べるわたし達の隣の席にうら痰ォパリジェンヌ(的見解)が座った。美人! 顔が小さい!! 華奢だがスタイル良し!!! の彼女を羨望の目でちらちら見ていると、彼女も こちらのテーブル−−正確には、テーブルの上のサラダ−−へ視線を送ってよこしている。

そしてギャルソンを呼び注文をした彼女の元へ運ばれてきたのは、わたし達と同じサラダだった。 この量を見て、それでも注文するなんて、やはりフランス人にとってはこれは一人前の量なのか?! おまけに彼女の元には篭盛りのバゲットまで置かれた。

うわぁ、それだけ食べるの? 食べきれるの?こちらが決の思いでサラダを食べている横で、 彼女は、こんなのは普通のサラダだといわんばかりに楽々と平らげている。 そして、気づけば、彼女はサラダをきれいに食べ終えていた! すごい! 完食してる!! あの量をその細い身体のどこに入れているんだ?!

わたしはただただ唖然呆然。何しろ、わたし達のテーブルには、5人でよってたかっても食べきれ なかったサラダが、ほぼ一皿分残されていたのだから。 わたし達の胃袋は、パリジェンヌ一人分にすら、ならなかったのだった。


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