田崎さんのパリ紀行−19

1999-Nov

パリ、最後の晩餐


結局、その夜のお出掛けグルメは取りやめになりそのまま地下鉄でビル・アケム駅へ戻り、駅近く のカフェで夕飯を取ることになった。夜遅く入ったそこは、カウンターでフライドポテ トをつまみに赤ワインを飲んでるおっちゃんや奥の席で酒を飲んでるおっちゃん達しかいなかった。 しかし、ここでくじけてはいけない。さらに店の奥に案内されると、ちゃんと食魔しているグループもいたので一安心。 さっそくメニューを開いて注文する。

「この特製スープを下さい」
「おわちゃったんだよね」
「じゃ、こっちのオニオンスープは・・」
「それも、ない」

ここのマスターらしき小太りの朗らかなおじさんが申し訳なさそうに告げる。(タクシーの兄ちゃ んとはえらい違いである)結局、ホットメニューは皆無で、あるのはサンド イッチとサラダだけだった。まあフランス風サンドイッチは食べてないし、と 気を取り直して、めいめいでサンドイッチを注文した。

「はい、どうぞ」

おじさんが持ってきたのは小ぶりのバゲット。頼んだのはサンドイッチのはずだけど、と思って よくよく見るとそのバゲットの横腹に切り込みがあり、各ゥが選んだ具が押し込めてある。 これがフランスのサンドイッチなのか・・・

バゲット1本という、その量に呆然とする。わたしの中身は生ハム(考えてみれば昼食と同じ だった・・・)だったのだが、これが何の混ぜ物もなく(バターは塗ってあったが)、ひたすら実 直に生ハムだけのサンドイッチなのだ。

バゲットを切って生ハムを詰め込んだだけ。どこまで食べてもバゲットと生ハムしか出てこない。 金太郎飴のようなサンドイッチだ。塩辛いのを除けばまずくはないが、これじゃ栄養 が偏よってしまう。野菜っ、野菜をくれーーっ。

こうして、食べても食べても減らないバゲットをもくもくと食べ続け、パリの最後の晩餐は終わってしまったのだった。



パリ・一人歩き
11撃Q1日(戟jパリ・晴れ


とうとうパリを出発する日がやってきてしまった。凱旋門もモンマルトルの丘も、毎日見ているエッ フェル塔すら上っていないのに、もう帰国の日なのだ。やはり三日間でパリを回ろうなんて所詮、 無謀な計画だったな、と敗北感をかみしめる朝の空は、今までで一番晴れ渡っていたのだった。

最終日なのでとりあえずの心cりは減らしておこうと、わたしはオランジェリー美術館へ、友人O 一家は買い物へと各々出掛けることにした。オランジェリー美術館は昨日オルセー美術館の帰 りに通ったコンコルド広場のすぐお隣にあるので迷子の心配は無かった。辿り着いたオランジェリ ー美術館は、ルーブルのだだっ広い前庭(?)の一画にある美術館なので、蝓か彼方にルーブル宮の姿が見えた。

目と鼻の先にルーブル美術館のあるオランジェリー美術館の目玉は何かというと、モネの睡蓮であ る。モネの睡蓮はわりあいに各地の美術館にあるが、ここのは半端じゃない。何しろ壁一面が睡蓮 の絵なのだ。高さ2メートル、幅10メートルはあろうかという睡蓮の絵を3枚つなげて楕円形の 部屋をぐるりと囲った部屋があるのだ。中央のソファに座れば自分が睡蓮の池にいるような気分になれること請け合いだ。

オランジェリー美術館は改修中だったが、この睡蓮の部屋だけは公開していた。改修中のおかげで 客も少なく、睡蓮の絵のようにのんびりと過ごすことができた。

條ヤが午前中に限られてなければ、きっとソファで眠りこけていたに違いない。それぐらい安穏とした感じだった。

オランジェリー美術館のあとは、足りないお土Yを買い足すためにラファイエットへ向かった。 ラファイエットまでは1キロほどの徒歩範囲なので歩いていたのだが、そのとき、いきなりアメリ カ人(的見解)女性に声を掛けられた。

早口の英語でよくわからないが、どうやら道を尋ねているらしいことはわかった。わかったのだが、 なぜ、わたしに聞く?どこからどう見ても東洋人のわたしに尋ねなくて も、パリジャンらしき人は大勢いるというのに、よりにもよって、方向音痴、地図が読めない、英 語力・沿ネ下のわたしに尋ねるとは!

日本ではどこに行っても、やたらと道を尋ねられるわたしだが、外国に来てまで尋ねられるとは思 いもしなかった。「道を尋ねやすい顔」というのは万国共通なんだな、きっと。

ラファイエットではカレンダーの追加購入に加え、一昨日目を付けていたボージョレーワインを買っ てしまった。ワインは重いのだが、せっかくボージョレーの時期に来てワイン買わない手はない! と、はるばる日本まで持ち帰ったのは、1本35フラン也(約700円)のワインだった・・・。

さて、わたしは一人歩きをしていると、ふらふら寄り道をして、まっすぐ目的地に着かない人間だ が、この日も時間が無いというのに、屋台のような売店で絵はがきを買ったり、街並みを写真に納 めたりしながら歩いてしまった。そして、ホテルへ帰り着いた時には、もう帰国する人たちがロビ ーに勢揃いしていた。もう、5分前集合なんて、とんでもないという時間。

つくづくと団体行動に向かない習性を持っているわたしであった。


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