田崎さんのパリ紀行−17

1999-Nov

オルセー美術館


オルセー美術館の前身はパリ万煤i1900年)のために造られた駅だ。増えすぎたルーブル美術館の 蔵品の展ヲのために美術館に改造されたのだが、外見は宮殿か貴族の館のように見える。だが、一歩 中へはいると、なるほど、という感じ。

入ってすぐの中央部分は、元・プラットホーム−−ど真ん中が線路で、その両脇がホーム−−だろう。 中央部の階段を下って後ろを振り向いた先には、駅の名残の大時計が今も時を刻んでいる。 汽ヤが出入りしていたことを彷彿とさせるように広々とした中央部は天井まで吹き抜けで、アーチ型の天 井は全てが曇りガラスなので、外光が入ってとても明るい。向こう側まで遮る物もなく見渡せるのも気に入った。

この開放感は元・宮殿のルーブル美術館には感じられない。ルーブルには荘厳・壮麗という言葉が似合 っている。このオルセーの見所だが、これが実にたくさんある。下手をするとルーブルより、ある。

ここにあるのは19世紀・20世紀の絵画や美術品なので、日本人に馴染み深いものが多いのだ。 年代をいってもピンと来ない方には、モネの「睡蓮」・ドガの「踊り子」・ミレーの「翌ソ穂拾い」・ ゴッホの「ひまわり」(だったかなぁ)があるといえば、その馴染み深さが分かるかもしれない。

絵画以外では、アール・ヌーボー、アール・デコの家具や装飾品が美術館の一画を占めている。曲線を 多用した家具は女性好みで、わたしは持って帰れるものなら椅子を持ち帰りたかった。(揩ソ帰っても 狭い我が家に椅子の置き場など無いのだが)この一画では某鑑定番組でよく偽物が登場するガレ のランプなども無造作に置いてあって、その収蔵品の豊富さにはつくづくと感心する。

それにしても、この家具類だけでも鑑定に出したら、一体いくらになることやら・・・  ベルサイユ、オルセーと、今日は豪勢なものばかり見ているような気がする。

2階のアール・ヌーボーの家具を見て回り、それから3階の絵画展ヲコへ上る。 3階にはルノワール・セザンヌ・マネ・モネ・ドガ・ゴッホと名だたる画家が勢揃いしている。それだけ に、ここが一番込み合っていたが、朝の通勤ラッシュ並の混雑になる日本の人気展覧会に比べたら、昼 間のローカル線ほどしか人がいないので、ゆっくり鑑賞できた。

ちなみに、この次期(1999年11戟jには日本でその名も「オルセー美術館展」なるものが開かれ ていたのだが、一体何を持って行ったんだろうと首を捻ったぐらい、見たい絵は全て残っていた。 パリまで来て、お目当ての絵が日本に運び汲轤黷スとあっては悔やむに悔やみきれないので、それはそ れで良かったのだが、しかし、何を持って行ったんだろう?



オルセー美術館で迷子 (になる人間はあまりいない)

ルーブルほどではないが、オルセー美術館もまた広い。ルーブルのような複雑な構造に混乱して、うろ うろさまようことはなかったが、普通に見て回るだけでもかなりの距離を歩くことになる。 というわけで、閉館まであまり時間はなかったが、歩き疲れた一行の足は、オルセー美術館のカフェに向けられた。

カフェにはピアノまで置いてあり、とても美術館の中とは思えない広さ。高い天井には、天井画こそな いものの、その装飾といい内装は宮殿か貴族の館。優雅な気分に浸るのには十分だ。しかし、従業員は フレンチ帽など被ったりして、接客も気さくで愛想良し。タルトも美味しかったし、非常に好感度の高いカフェだった。

お腹も満足したことだし、後は見ていない階を見て回るだけね、と再び美術館を歩き始めたのだが、や はり第二のルーブル美術館。その展ヲ品を半日で見て回ろうという考え自体が無謀だった。 1階まで下りたあたりで館内放送が流れてきた。どうやら閉館まで時間が無いのでとっと出て行けということらしい。

「うわーん、まだ見てないところいっぱいあるのにぃ」

足掻いても時間は無情に過ぎていく。しかし、わたしは貧乏性だった。一回入った所は最後まで見て回りたい質なのだ。

「こうなったら、條ヤまで見て回ってやる」
「じゃ、рヘお店の方にいるね」

決意も新たにするわたしだったが、目的のものを見てしまった友人Oはそっけなかった。というか、友 人Oにとっては、パリで随一と云われるオルセーのミュージアムショップもまた目的の一つだった。

「рヘ閉館まで見て回るから、お店で待ってて」
「わかった。じゃ、後でね」

こうしてわたしは美術館1階展ヲコへ、友人Oと母上はミュージアムショップへと別れて行動することとなった。

二手に分かれた後のわたしは駆け足だった。美術品を鑑賞するほどの時間は無くて、忙しない観光客の 見本だったが、見ない方がよほど勿体ない。だが、やはり時間は待ってはくれなかった。中央か ら右半分の展ヲコの奥から二部屋目でタイムアウト。奥の部屋から順番に、係員がロープを張って中にい た客を追い出しにかかっていた。

他の展ヲコからもぞろぞろと最後の客が追い出され、出口であるミュージアムショップへと向かっていく。 そんな客が2階からも3階からもぞろぞろ来るのだから出口はラッシュ状態。しかも残っている大半は欧米人。 日本人との体積比が2倍はあろうかという人もいて、買い物客と出て行こうとする客とで、店の狭い通路は押すな押すな の大盛況。店に積んである本や商品が崩れないのが不v議な程の混雑ぶり。

こんな中に入っていきたくないぞ・・・もともと田ノ育ちなのでラッシュとは無縁の生活。 バーゲンの人混みすら好きではないのに、出ていくだけで人混みにつぶされるなんてとんでもない。 それに、こんな中では友人Oも探せまい。と理屈をこねて、ラッシュの波が過ぎるまで、店の 片隅でその大混雑を眺めていたのだった。

その混雑の中、一応、友人Oの姿を探してみるが、どこを見渡しても友人Oも母上の姿も見えなかった。 店の中での待ち合わせのはずだったんだけどなぁ。美術館の中には・・・いるはずないよなぁ。 店の美術館側の入り口は、とっくの昔に閉められている。

そうこうしている間に人の群も過ぎ汲閨Aようやくゥ由に歩き回れるほどの数に減った。 だが、友人O達の姿はどこにも見えない。おかしいな。何でいないんだ。 もしかして、先に出て行ったわけ?!

閉館時間はとうの昔に過ぎていたから、わたしの帰りを待ちくたびれて先に行ってしまったのかもしれ ないな。

ううむ、どうしよう。

と店で悩んでいても仕方がないので、とりあえず、外に出ることにした。

美術館の外はとうに日が翌ソ、代わりに淡い三日がセーヌ川の対岸に浮かんでいた。 その撃眺めながら美術館の入り口の広場へ歩いていく。 ここにいなければもう帰るしかないだろう。そう思って広場をぐるりと眺め渡すが、入り口前の 広場は真っ暗で、友人Oの姿は見えなかった。

これは、いよいよ迷子だな。

この場合どっちが迷子と云うんだろう?しばらく広場の脇に佇んでいたが、友人Oがいる気 配はない。d方がない、ホテルへ帰ろう。そう思ったまさにそのとき、聞き覚えのある声で名 前を呼ばれた。声の方を振り返ると、美術館の出口とは反対の方から友人Oと母上が来るではないか。

「よかったぁ、あんまり出てこないから心配したよ」
「ごめん」

聞けば、友人O達の方はやはり先に店を出ていて、出口でしばらくわたしを待っていたらしいが、係員に もう閉館だよと云われ、出口も閉められた(そういえば、出口の横の隙間のようなドアから出てきたような 気がする・・・)んで、係員用の出入り口まで行って「友達が中にいるんです」と、係員とやりとりしてい たらしい。

わたしが人混みを眺めている間にそんな大騒動をしていたとは、申し訳ない・・・ わたしなど、いないのが判った時点で、ホテルに帰れば会えるさー、などと呑気に考えていたというのに。 (これだから、A型じゃないとか云われるんだろか)まあ、しかし、見つかってよかった、ということで 無事、O人揃ってホテルへ帰ることとなった。


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