田崎さんのパリ紀行−16

1999-Nov

ベルサイユへいらっしゃい 7
〜グラン・トリアノン&   U歩するフランス犬〜


そうこうしている間に園内列車がやって来た。切符(というか1枚の紙切れなのだが)を見せて乗り込 むと列車は一路グラン・トリアノンへと向かった。

グラン・トリアノン(大離宮)は、見るからにベルサイユ宮殿の縮小版だった。 ルイ14世その人が建てた離宮だから、それも当たり前か。(いかにも、彼の趣味が出ている) 外見が白くて小さい館という感じのプティ・トリアノンと違って、大理石と班岩を使ったグラン・トリ アノンの外見は何とピンク色! ピンク大理石は本当に桃色なんだな、としみじみ実感。

内部の方はというと、鏡の間を模した回廊があったり、内装も天鵞絨d立ての天蓋付きベットや金縁の 家具があったりとベルサイユ宮殿を彷彿とさせる。高さこそ2階建てのプティ・トリアノンが勝ってい るが、規模と金のかけ方はグラン・トリアノンの勝ちである。

さすがにルイ14世が愛人マントノン夫人との住まいにしていただけのことはある。 裏閧ノ回ると土肌をさらした花のない花壇と、その先には、ベルサイユ宮殿と離宮を行き来したという 運河が見渡せる。庭には噴水も設えてあったが、これも休~中で妙に殺伐としていて悲しくなった。 やはり庭の散歩は春・夏のオン・シーズンに限る。

グラン・トリアノンを見て回り、後はベルサイユ宮殿へ帰るばかりとなった。 マリー・アントワネットが作ったという農村を模した場所なんかも見たかったのだが、地理感覚にいま いち自信がもてず、今回は断念して、そのまま園内列車に乗って戻ることにした。

木立の中を走る列車に乗っていると、ここが宮殿の庭だとは到底思えない。まるっきり森の中にいるよ うだ。ュが出てきても驚きはしないだろう。最も、真夏のような格好でジョギングする人には驚いたが。 列車は運河沿いの道をしばらく進み、運河横の広場になってところで停車した。ここでも乗客の乗り降 りがあるらしい。

広場では子供がボール遊びをしていたり、のんびりU歩する人がいたりと、普通の公園のような雰囲気 だ。そのなかで妙な動作をする犬がいた。

カップルがテリアほどの大きさの犬を散歩させているのだが、当の犬は歩かずに、懸命に飛び上がって 狽「主の腕に飛びつこうとしている。

「あの犬、きっと足が冷たいんだよ」

友人Oの言うとおり、犬はどうも地面に足を付けたくないらしい。肉球が冷えきった地面に直に接して いるのだから、その気揩ソはわからんでもない。犬はだっこして欲しがっているが、狽「主はそんな 犬を全く無視してすたすたと歩いている。

「寒いよーー。冷たいよーーー。ねぇ、だっこして。だっこーー!」

狽「主にまとわりつく犬の心境はこんなものだっただろう。 それにしても、同じ気温下で、冷たくて歩くのを嫌がる犬と真夏の格好で走る人間。 これは、果たしてどちらがまともなのだろうか。

犬も寒がるベルサイユは、気温がいま、この瞬間に下がったのが判った!という経験(ゥ分の居る空間 が丸ごと冷蔵庫に放り込まれたような感じ)も含めてなかなか楽しいものだった。寒いベルサイユは堪 能したので、今度はぜひ花の季節に来てみたいものだ。



そしてオルセーへ

パリからはるばると郊外のベルサイユまで出向いての観光だったが、せわしい日本人観光客たるもの、 貴重な一日をここで終わらせるわけにはいかない。(庭園内を散歩すれば1日費やしても足りないかも しれないが)氓ネる目的地、オルセー美術館へと出発する。

が、その前にお昼ご飯だ。 駅から歩いていたときに目星を付けていたクレープリーの店でごはんにする。 クレープリーの店のメニューはクレープのみ。

日本の甘いクレープと違ってこちらは基本的に食として食べる。Mにクレープを広げて具を乗せ、M からはみ出した部分を折り畳むだけ。日本のようにくるくる巻きにもしないので、まあ言ってみればオ ープンサンドみたいないものだ。

食沫pとデザート用のクレープのセットメニューもあったが、過汲フ経験から量的に無理と判断し、各 ゥ一枚ずつ注文する。結果としてこの判断は間違っていなかった。

直径30センチ近くの皿からはみ出さんばかりのクレープは一枚で十分すぎる代物だった。それでも、 隣のフランス人家族はちゃんとデザート用まで平らげていたから、やはり胃袋の許容量が違うらしい。 わたしが注文したのはジャンボ(=生ハム)と卵の(真ん中に卵を一個翌ニして焼いてある)クレープ。 生ハムが塩辛すぎたが、なかなか美味しかった。

食べきれなかったのは友人Oの母上が注文した野菜のクレープ。妙に苦みのあょuめたタマネギのよう な食感の野菜がどうしても馴染めない。O人で味見をして、メニューの具を思い出した結果、西洋野菜 のチコリ(アンディーヴとも言う?)だろうと推測。名前だけは知っていたこのチコリ、なかなか興味深 い味ではあった。

満腹になったところで来たときと同じRERの列車に乗り、オルセー美術館を目指す。 パリへ向かう路線は1本だし、降りる駅も、その名も「Musee d'Orsay=オルセー美術館」なので、行き のように悩むこともない。

半地下になっているような駅を上ると、もう目の前はオルセー美術館の玄関なのである。おまけに看板 には日本語でしっかり「オルセー美術館」と書いてある。この明解さに、迷う余地は全く無かった。 ちなみに、日本語が入っている看板を見たのは後にも先にもオルセー美術館だけだった。

日曜日が割安になるせいもあってか、オルセーの前には入場を待つ人の列ができていた。だが、二十人 ほどをひとまとめにして入れていくので、数十人の列の後ろに並んでも、大して待たされることもなく 入場することができた。

入場はカルト・ミュゼを見せればオーケー。足を踏み入れたオルセー美術館は、曇天のパリの空 とはうって変わって光にあふれていた。


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