●ツアー・ウォーズ4(かな?) 〜 ショー・ガール 〜
ショッピング街での自由時間の後、大阪のおばちゃんの両手は大荷物で塞がっていた。
「色々買ったんですねえ」
「そうや、荷物がのうなったからねえ。これが靴やろ、 これがバックやろ、化粧品やろ、こっちは・・・」今買った分だけで、とうにわたしの荷物を越えていた。
旅の必要物資を景気良く買い揃えたらしい。
しかし、これで荷物が見つかったら、スーツケース2個分の大荷物だ。
人ごとながら、運ぶ苦労を考える とうんざりした。片方を丸ごとセットで捨てたくなりそうである。
だがまあ、無くなってからもう5日。これから荷物が見つかる確率は低い。
そうなれば今回買ったものは 今後も役立つはずで、無駄な買い物ではない。
無くな った荷物は戻ってきた方がいいが、もう必要なものを買い揃えたなら、旅の終わり頃に見つかるのがベストだろう。
その思惑は、1時間もしないうちに破られた。
ホテ ルに着くと、荷物が見つかったという連絡が入っていたのである。
夕食後、おばちゃんとウサムさんは荷物 を引き取りに空港へ向かったのだった。* * *
翌朝。何でもかんでも詰め込んできたという彼女の荷物とは、一体どんなものなのだろう。
「アライさん、良かったですね。大阪のおばちゃんの荷物、見つかったそうで」
「ええ、あれです」
「あれ? あれ全部?」
「ええ、しかも重いですよ」
「そうでしょうねー。重すぎてターンテーブルに載らなくて無くなっちゃったんじゃないですか?」
「はは、そうかも・・・」バスの横に置かれた彼女の荷物を見て、荷物が増えることへの気遣いなど彼女には無用だったことが分かった。
そこには大きいサイズのスーツケースが2つと、それと同じ大きさのキャスター付きバッグがあったのだ。
初めからこれだけ持ってくる根性があれば、今更多少増えてもあまり変わらないだろう。
ただ、彼女が自力でこれらの荷物を運ぶつもりでいるとは到底思えなかった。
実際に苦労するのは、ポー ター、日本で彼女を空港へ送迎する家族かタクシー運転手、そして彼女が荷物を手にした瞬間に運悪くその 場に居合わせた人々だろう。
彼女の荷物のそばには近 寄るまいと、わたしは固く決意した。
ところで、この日から始まった彼女のファッションショーは、かなり見応えがあった。
ゴージャスな服と それに見合う靴や鞄や小物、きらびやかなアクセサリー、日々変わる髪型、高級化粧品で入念に作られた顔。
鞄の中身をフル活用した日々の創意工夫には、つくづく感心させられた。
毎朝身だしなみにこれほど気を遣 う根性は、あっぱれ見上げたものだ。
ただ、小柄なおばちゃんごと盗んでいこうという効率的な泥棒に遭遇しなかったのは、単に運が良かっただけのような気がする。