山口さんの「さまよえるラム」−34

中東のお肉は食べられなかった紀行?


●ヤンママ

 モスク観光後、約1時間半の自由時間が設けられた。  
モスクの出口からは、道頓堀を3倍にした位の規模の大ショッピングアーケードが続いている。
シリア土 産を買う最後のチャンスだ。
国別に集めているピンバ ッチを探しに、わたしはとんちゃんと街へ繰り出した。  
アーケードはとにかく大きく、歩けど歩けど果てが見えない。
客呼びの兄ちゃんの話を聞いたり、とんち ゃんが興味を示した楽器屋で弾いてもらってみたり、都会のシリア人はさらりと友好的である。  
しかし、乳母車を押した年若い女の子二人組に突然話しかけられた時は、少々驚いた。

「シリアにようこそ、お会いできて嬉しいです! どこから来たんですか?」
「ど、どうもどうも〜、日本です」
「日本ですか! わたしの父は台湾と中国と貿易の仕事をしていたんですよ!」

 友好的な彼女と話したい。心底そう思い、中国と台湾の貿易について知識をフルに絞り出し、わたしは答えた。

「へえー・・・・・・」

 元商社マンのうんちくおじさんなら盛り上がっただろうに、とても残念である。  
ころならずもそっけなさすぎるので、おもむろにわかりやすい話題に変えた。

「シリアはとても良い国ですね。日本にも来て下さい。 ところで、このお子さんはあなたの?」
「ええ」

 乳母車の赤ちゃんを見て、20歳前後の彼女の顔には母親らしい威厳ある笑みが浮かんだ。  
きっと同じ位の歳だと思われているに違いない。騙しているかのような罪悪感に、こちらは冷や汗笑いが浮かんだ。  
まあ、実年齢はこちらが上、精神年齢はあちらが上、その間ということで丁度よかろう。

意味のない理由付 けで自分を納得させると、出会ったときと同じように、にこやかにわれわれは別れた。  

略せば同じ「ヤンママ」でも、シリアでは単純に「若い母親」のヤングママ。
一方渋谷にいるのは、山姥 メイクのヤンキーママ。ヤンママ好感度対決、個人的にはシリアの勝ちだなあと思った。



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