●ヤンママ
モスク観光後、約1時間半の自由時間が設けられた。
モスクの出口からは、道頓堀を3倍にした位の規模の大ショッピングアーケードが続いている。
シリア土 産を買う最後のチャンスだ。
国別に集めているピンバ ッチを探しに、わたしはとんちゃんと街へ繰り出した。
アーケードはとにかく大きく、歩けど歩けど果てが見えない。
客呼びの兄ちゃんの話を聞いたり、とんち ゃんが興味を示した楽器屋で弾いてもらってみたり、都会のシリア人はさらりと友好的である。
しかし、乳母車を押した年若い女の子二人組に突然話しかけられた時は、少々驚いた。「シリアにようこそ、お会いできて嬉しいです! どこから来たんですか?」
「ど、どうもどうも〜、日本です」
「日本ですか! わたしの父は台湾と中国と貿易の仕事をしていたんですよ!」友好的な彼女と話したい。心底そう思い、中国と台湾の貿易について知識をフルに絞り出し、わたしは答えた。
「へえー・・・・・・」
元商社マンのうんちくおじさんなら盛り上がっただろうに、とても残念である。
ころならずもそっけなさすぎるので、おもむろにわかりやすい話題に変えた。「シリアはとても良い国ですね。日本にも来て下さい。 ところで、このお子さんはあなたの?」
「ええ」乳母車の赤ちゃんを見て、20歳前後の彼女の顔には母親らしい威厳ある笑みが浮かんだ。
きっと同じ位の歳だと思われているに違いない。騙しているかのような罪悪感に、こちらは冷や汗笑いが浮かんだ。
まあ、実年齢はこちらが上、精神年齢はあちらが上、その間ということで丁度よかろう。
意味のない理由付 けで自分を納得させると、出会ったときと同じように、にこやかにわれわれは別れた。
略せば同じ「ヤンママ」でも、シリアでは単純に「若い母親」のヤングママ。
一方渋谷にいるのは、山姥 メイクのヤンキーママ。ヤンママ好感度対決、個人的にはシリアの勝ちだなあと思った。