山口さんの「さまよえるラム」−30

中東のお肉は食べられなかった紀行?


●教えて、ウサム(orウサバ)さん

 ツアーの初めの頃、バスの中で添乗員のアライさん が提案した。

「みなさん、今から紙を回します。シリアについて何でも質問があれば書いて下さい。 まとめてウサムさんに聞いて、後でお答えします」

 グッドアイデア。数日後、回答が発表になった。
 
感心したのは、ウサムさんがどんな質問に対してもちゃんと答えたことである。
農産業や宗教など定番の 質問にはもちろん、携帯電話の普及率(Mさん)や、民族音楽(とんちゃん)についても、真面目な回答が あった。アライさんの助力も大きかったろう。  
そして、わたしがここ数年疑問に思っていたことにも、ついに答えが得られた。

「えー、次の質問は”石油王とはどこで知り合えますか?”ですね。 この”石油王”の訳が分からなくて困りました。石油を見つけてお金持ちになった人でいいんでしょうか?」

まあ一応それで尋ねました。   で、答えですが、

「石油は見つかったら国有化されて、見つけた個人のものにはならないそうです。 つまり、石油王はいないそうです」

 があーん。そうなのー?  
だがまあ確かに、どこの国でも、資源開発は国家事業となるのが当然かも知れない。  
しかしそうならば、「石油王と結婚する」と豪語し、出会いを求めてアラブ圏に繰り出していたわたしの努 力は、無駄だったということか? 「石油王の(n番目?の)妻」という響きがいいのであって、「石油会 社社長の妻」や「産油国王の妻」では、理想とちょっと違う。  
嗚呼、長年の夢があっさり破れてしまった。人生計画にも大修正が必要だ。
しばしの間呆然としつつ、今 後の人生について考えたのだった。

 この質問コーナー以外でも、ウサムさんにはこんなことを教わった。

(1)羊は毛を刈らないとどうなるのか  伸び放題でいつかは毛の長さが10m以上になるの か、またはある程度で抜けてしまうのか。  
答えはなんと「暑くて死んでしまう」。人類が毛を刈るようになる前は、羊は今より大分短命だったのだろうか。

(2)アラブ圏の人は、頭以外体毛を剃るのか Mさんが読んだ本にそう書いてあったという。アラ イさんに聞いてもらおうとしたが、「わたしにはとても聞けない」「いや、聞くのが添乗員の使命だ」と論争を呼んだ質問。  
答えは「当然!」。暑くて汗をかくため、体毛はないほうが清潔なためである。
一方顔は、砂嵐などから 防御するため、眉、睫、鼻、耳などの毛は伸ばす。なお、髭がない男性は同性愛者らしい・・・?

(3)ウサムさんとアライさん  最初のうち、アライさんに説明するときのウサムさ んは、やけに顔を近づけていた。ところが数日経つと、なんとなくよそよそし気になってきた。

「アライさん、実は迫られたりしませんでした?」
「ええちょっと。でももう諦めたみたいです」
「やっぱりねえー」  

若い女性がアラブ圏の添乗をする時は、避けられぬ気苦労らしい。
だが、迫られなくなったら、やはり寂 しいことだろう。

(4)ウサムさんは何歳か  顔、ファッションは若く35歳未満。だが腹部はどう見ても4、50代。
つまんだら、電話帳1.5冊の 厚みになるだろう。

「アライさん、彼は何歳なんです?」
「27歳だそうです」
「えええーっ、あのお腹で!?」
「いやあ、ほんと、わたしも驚きました。妊娠しているって言ってましたよ」  

3年後にはすっかり中年太りのおじさんになっている姿が目に見えるようだった。  
ウサムさんよ、今からでも遅くない。
日本女性にモテたければ、もう少しおなかをひっこめたほうがいいぞ!



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