山口さんの「さまよえるラム」−29

中東のお肉は食べられなかった紀行?


●クラック・デ・シュバリエ

 ツアー5日目。
今日のメインは、英・仏・独・伊の 十字軍の軍隊が作った要塞、クラック・デ・シュバリ エ観光だ。

 その途中、水車で有名な町「ハマ」に立ち寄った。  

町の中心部のウォーターフロントの一角で、直径10m位の巨大な水車がぎーこら回っている。
間近で見 るとかなりの迫力だ。50m程離れたところにも、同じ大きさの水車があった。
全部で4つの水車があるそ うだ。  この日は丁度、春祭りが開かれていた。
建物の間に は垂れ幕が下がり、食べ物や小物の屋台が並び、かなり賑わい振り。
水車の前の広場には遠足らしい子供た ちが溢れ、乗ラクダを曳いたおじさんが歩いている。  
春というより夏に近い暑さのため、アイスボックスの脇に座ったアイスクリーム屋のおじさんには、子供 たちがピラニアのように群がっていた。

 ハマを後にすると、バスは一路南へ。
そのうち、色 とりどりの花が咲き乱れる山をうねうねと登り始めた。目的地はこの山の上になる。
ドライブにもってこいの、 眺めの良いコースだ。  
ただ、いろは坂でもぐいぐい飛ばす運転は、遊覧飛行に近かった。
三半規管に不安のある人は、酔い止め を用意しておいたほうがいいかも知れない。    

バスが目的地に着いた時、驚いたことがあった。

「わあーなんだなんだ、この子供達は!」  

実はこの日4月17日は独立記念日(1936、フランスから?)で、観光客だけではなく、地元の小・ 中・高校生も遠足で大勢訪れていたためだ。
カメラを 出しただけでポーズをとる子供達は、態度も容貌もか わいかった。  
ところで、子供達の恰好はこぎれいで、日本とあまり変わらない。教育制度も日本と遠からず。
医学部は 授業料は安いが、国家試験に受かると必ず2、3年、辺境の地へとばされるそうだ。
いまどきの子供はどこ の国でも大変だなあと思った。

 全てが石造りのクラック・デ・シュバリエは、見るからに難攻不落の要塞だ。
巨岩でできた垂直に近い壁 は高さ30mはある。表面は平らで、足がかりになりそうな隙間もない。
白っぽい壁の石や大きな礼拝堂が、 いかにも聖戦用の城らしい。  

数百年前の、ドンドンと大砲が響き、奮い立つ馬がいななき、甲冑に身を固めた十字軍の兵士達がガッチ ャガッチャと駆け回っていた頃が目に浮かぶような気がした。  
だが今ここにある眺めは、平和そのもの。暑いほどの初夏の陽射しの中、野の花が石垣を飾っている。
日 陰でイモムシの塊のように見えるのは、昼寝中の羊の群だ。高台にあるので、周りの眺めも素晴らしい。  
ところで、広場の一角でクラスレクレーションをしているらしい子供達を見て、驚いたことがあった。
3 0人ばかりが輪になって、内側を向いて座っている。
一人(Aとする)が輪の外側を走り、任意の誰か(B)の後ろで布を落とす。
布を落とされたことに気付い たBは、Aを輪の周囲に沿って追いかける。  
おおー! ハンカチ落としは世界共通の遊びだったのか!  
驚きつつ眺めているうち、無性にやりたくなった。
もう何年もやっていないし、是非やりたい。入れて!・・・とは、やはり言えなかった。
とても残念だった。



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