山口さんの「さまよえるラム」−26

中東のお肉は食べられなかった紀行?


●シュール好み

 夕食前、とんちゃんと連れ立って、ホテルの隣のブロックにある市場を見物に出かけた。

「ちょっとこれ、すごいなあ」  

それは、熱帯魚中心のペット屋。二人でまじまじと見つめたのは、水槽用エアポンプだった。  
高さ10cm位の白い小便小僧形、ちょっと珍しくはある。
だがそれが強烈に目を引いたのは、その目のせいだった。
小便小僧の目の部分全体、つまり白目の 部分と黒目の部分が、黒いマジックペンで塗りつぶされていたのである。  
それがどれほど異様かは、是非試す価値がある。
と んちゃんとわたしは、人気のない路地の店の前で、ネジが壊れたようにしばらくげらげら笑い転げた。  

その馬鹿笑いが聞こえたのか、大柄な店主が顔を出した。もっと面白いものがあるかも知れない。
折角の チャンスとばかり、店に足を踏み入れた。 
壁と棚を覆い尽くす、珍品とガラクタのオンパレード。3畳程の狭い店内は、予想を裏切らなかった。
巨 大きな2枚貝に食べられかけているダイバーの置物を見つけた時、とんちゃんとわたしは再び笑いの発作に襲われた。
店主は、少々怪訝な顔をしている。

「はあーおかしい。それにしても、シュールやなあ」
「全くだ、シュールやなあ」  

このシュールなセンス、シリアのお国柄だろうか。
だが、商品の古ぼけ様を見ると、売れ行き上々ではなさそうである。
ということは物静かな店長の好みだろ うか。 
だが、魚たちの生きる、狭い水槽というストレス環境には、結構似合わなくもない。  
笑いまくったおかげで、ヒヨコの件で少し沈んでいた気持ちが晴れた。
買いたくはないが珍品揃いの店か ら出、ホテルに帰る足取りは軽かった。



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