山口さんの「さまよえるラム」−24

中東のお肉は食べられなかった紀行?


●アレッポ名物・オリーブ石鹸

アレッポの名物お土産品の筆頭はオリーブ石鹸だ。
本場のオリーブ石鹸は、豆腐1丁弱の大きさで、表面は黄土色ででこぼこしている。
二つに割ると内側は オリーブの緑色だ。この緑色が濃いほど品質が良い。
値段は、一番上等なものが100SP(シリアポンド=約200円)、ちょっと落ちるのが75SP、一番安いのが50SPである。  

さて、買う時に問題になるのが、品質の見分け方。
丸ごと1個単位で買うので、使ってみるまで中の色は分からないのだ。  
一応、外側の黄土色が濃いほど内側の緑色も濃く、上等品らしい。
だが、いくつか見せてもらった感じで は、当てになる確率は6〜7割だった。 
だがまあ、外れても目くじらたてる値段ではない。
それに日本では、半分の大きさで倍の値段するという(未確認情報)。
21世紀の鈴木その子になりたい人 には、やはり超お買い得だ。 
その上、数少ないシリア名物土産、かつ手軽な品と値段。石鹸は売れに売れた。  

しかしなあ。これからまだしばらく歩いて観光をする間、石鹸を持っているのは重い。
それに一応「石」 コレクターとしては、「石鹸」を買うのは邪道だ。
そ の子ファンでもない。結局、折角の名物土産をわたしは買わなかった。  

一方、薬剤師のA嬢F嬢コンビは、会社の同僚に二人で50個あまりを購入。
その後、キャラバン・サラ イ(隊商宿跡)などを訪れる間、日ごろはピンセットしか持たぬであろう二人には、筋トレの良い機会とな ったに違いない。  
会社での二人の迎えられようが浮かんだ。

「はいこれお土産、アレッポ名物・オリーブ石鹸」
「わあ、ありがとう。重かったでしょう」
「ええ、筋肉痛になりました」
「よし、じゃ、お礼に筋肉痛緩和剤を調合してあげる。ニンニクと牡蠣肉エキスとスッポン入りの特製よ」
「わあ、ありがとう。手はこの石鹸で洗って」
「丁度いいわねえ、はははは」 「はははは・・・(事務所中、笑)」  

薬剤師、優雅なお仕事である。

 今日の観光は終了。後はバスに乗ってホテルへ直行・・・ではなかった。

「あら? この道、さっきの道ちゃう?」


結局、アレッポ城の周りを2周した。交通規制もなくホテルも見えているのに、何事だろう?  
それは、N夫妻を見つけようというはかない希望を繋いだ、最後のあがきだった。
しかし、二人だけの愛 の世界に旅立ってしまった彼ら、こんなところを彷徨っているはずはない。  
結果は空しく、収穫ゼロ。ついにバスは、ホテルに向かう角を曲がった。
乗客一同は、駐車場横の喫茶店 でコーヒーを飲みつつ二人を待つ第2添乗員氏に、希望を込めて手を振ったのだった。

 約5分後、ホテル正面玄関が見えた瞬間である。

「あぁ〜ああぁ〜あ」  

バスの中では合唱が起きた。そこに、人ならぬバス待ち顔で立ちつくした、時の人・N夫妻の姿があったからである。



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