山口さんの「さまよえるラム」−17

中東のお肉は食べられなかった紀行?


●ツアー・ウォーズ2
 〜ミッション・インポシブル〜


 遺跡からの帰り道、たまたま「ファントム目立つ」大阪のおばちゃんの近くに居合わせた。
 昨日は度肝を抜かれたが、もう彼女を恐れる必要はなかった。一人参加の彼女は、誰彼に声をかけては写 真を頼みつつ、独自の「使える人リスト」を作っていたからだ。

私はリストには、入っていなかったようで、最後の死海までカメラを頼まれる事はなかった<ラッキー!!
 穏和そうな男性、良いカメラを持った人、てきぱきした感じの人、いい写真スポットにいち早く行く人は リスト上位へ。わたしは昨日、初対面でのうろたえぶりでリスト落ちしたので、当てにされる気遣いはなか った。

 檻の外にいればもう安心。珍獣か異星人同様、彼女は大変興味深い観察対象だった。何を考え、どう行動 するのか、一挙一動が見逃せない。 だが、やぶへびでは何度も痛い目に遭った。リスに は咬まれの、蜂には刺されの。君子、危うきに近寄らずだ。  しかし、それを繰り返してしまうのが、君子とはほど遠い凡人の宿命なのである。

「暑いですねえ」

 ついつい話しかけてしまった。

「ほんまにねえ、暑いわあ」
「スーツケース見つかりました?」
「まだや、あんた。服とかカバンとか、昨日タクシーで街に出て、買うてきたんや」
「へえー、そうなんですか」
「そうや。はよ見つからんと困るわ」

 この会話で、わたしは分析した。

1.荷物紛失2日目で、もう買い足し開始。(見つかる可能性薄のためかも知れないが)
2.結構高そうなものを買っている。
3.持ちきれない重さの荷物を無くしたというのに、まるであっけらかんとしている。
 → 買い物大好き、金持ち
4.いきなり一人でタクシー外出
 → たくましい。旅慣れている。


 それにしても、荷物紛失で落ち込んでいる様子をまるで見せないのは、偉い。慰めるつもりで、わたしは言った。

「でも、見つからなくても、保険で大分カバーできるらしいですよ。 中には、かえってたくさんお金が戻って来る場合もあるというし」
「だめよ、あんた。保険に入ってへんもん」
「え? でも普通の保険に入っていたら、荷物紛失保障もついてません?」
「あらそうなん? でも保険に入ってへんから」
「えっ・・・? 普通の保険も入ってないんですか?怪我とか、病気の時のためのも」
「そうや。今まで1ぺんも入ったことないで」(ちょっと自慢げ)

「へえー」
「だって今まで、こんな目、おうたことないし」
「はあ。でも、旅行社に勧められません?」
「勧められるけど、でもお金がもったいないやん。いくら位するの?」
「1万円くらいですかねえ」
「高いなあ! あんた、いつも入ってるの?」
「ええまあ、一応」

解説しよう
保険は、セット物の大半ですが、バラでも掛ける事が出来ます。 その場合、「死亡保険+付けたいもの」と言う感じになります。 死亡+携帯品とすれば、かなりお安く掛けられます。
彼女の場合、ロストバゲージだったからよかったものの、盗まれていたら終りです。
携帯品位は、保険に入って行きましょう!!

 荷物が大きいほど、無くした時のために保険に入っておくべきではないのか? 20回保険なしで旅行し ても、彼女の場合、1回荷物を無くせばマイナスだろう。 一方、小荷物のわたしはプラスは確実。しかし、保 険無しで旅行に行くのは、やはり怖くてできない。 見かけによらず、妙なところでケチってるなあ。ゴ ージャス系の彼女の恰好を見ながら、わたしは思った。

「ふうん。高いのになあ」

 見かけによらず、そんなとこにはお金をかけてるんやなあ。そう言いたげに、カフィーヤを巻いてほとん ど現地人化しているわたしの恰好を、彼女は見た。珍獣か異星人を見ているような顔つきだった。  会話がとぎれたのをきっかけに、われわれは自然と離れていった。

 後になって、1つ残念に思ったことがある。わたしの全荷物はドラム缶バック1つだと言ってみれば良か った。驚きのあまり、海老反りくらいしてくれたに違いない。 おばちゃん、やはり面白い。 「近寄るべからず」と いう常識的指令は遂行不可能だと、わたしは確信した。



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