山口さんの「さまよえるラム」−13

中東のお肉は食べられなかった紀行?


●ホテルと食事について

 今回のS旅行社の売りは、その庶民派価格。12日間の全食付・添乗員付のツアーで、約25万円だ。 アイルやマッハなら倍はする。

 そのため、ホテルと食事は、ある程度は妥協するつもりだった。ホテルに関しては、蟻ではなく湯が出る シャワーと、清潔なシーツ。食事は、羊攻めでない日を最低3日に1度。いくら安いツアーでも、この位は 期待してもよかろう。

 ところがどっこい。期待は大きく裏切られた。それが実は、嬉しい驚き。どちらも予想より、はるかに良 かったのだ。

 まずはホテル。行きがけの飛行機で日程表とガイド本を照らし合わせながら、わたしは段々怖くなってきた。

 殆どが4つ星か5つ星。しかも、ホテル一覧のトップのまである。同名の別宿かとも思ったが、住所と電 話番号も同で、ひっかけではない。そして実際、概ねいいホテル揃いだった。

 S社、やるなあ! サンタ氏の1件でのマイナスイメージは、これで払拭されたのだった。

 次は食事。羊攻撃にもチーズ攻撃にも、今回は泣かずに済んだ。食事はバイキングか、前菜がテーブル別 の取り分け料理+メインという形だったからだ。

 バイキングは1流ホテル揃いだったので、種類は豊富で味も良かった。

 牛・鶏・羊の肉料理は煮込みが中心。何の肉か分からないで食べることも多々あったが、味は悪くなく、 概ね好評だった。 そして多分、そのほうが良かったのだろう。

「ム、これ、羊の脳ミソだね」

 Mさんの何気ない一言。その場にいた人々はみなぎょっとし、卵大の白い塊をしげしげと眺めた。  見れば見るほど鮮明に浮かび上がる、表面のしわ。わたしの見る限り、嬉しそうに味わっている人はいな かったようだ。

 野菜料理は、ビクトリアステーションのサラダバーのように多種多彩。朝昼晩、必出アイテムの筆頭は8 つ切りトマト。2つ切りの10cmサイズのピクルスは、何よりも豪快だった。

 デザートは、大体が中甘。個人的な一番人気は、カリカリの鶏卵素麺(たしか福岡銘菓)みたいなもの。 ココナツだろうか。出る度、毎回食べていた。

 それと、必ず1つ2つは、トルコのバクラバによく似た、超劇甘の蜜漬パイがある。ホテルのものは、ま だ食べきれた。しかし、一度ドライブインで味見したもの、それはかみ切った瞬間に前歯が溶けるのが分か る、凄まじい甘さ。糖度の限界への挑戦の味としか思えぬ味だ。

 わたしもお酒を飲むようになる前は、猛烈な甘党だった。アラブの人が大甘党なのは、イスラム教で酒を 禁じられているためかも知れない。

 一方、昼食で多かったのが、取り分けの前菜+メインの食事。前菜は、最低でも5、6種類出る。豆ペー スト、ヨーグルト、焼いた羊肉、トマトやキュウリなどの野菜のビネガー風味あえ等々。それを、クレープの ようにぺらぺらの、焼きたてパンで巻いて食べる。

 必ず2,3個は食べられるのがあるのが良かった。暑くて乾燥しているせいか、酢やレモンを使ったさっ ぱり味のものが多く、それが美味。いつも食べ過ぎて、「メインが無くてもいい程だなあ」というのが、みん なの一致した意見だった。

 しかし、そう言っておきながら、メインも切りすて難いおいしさ。鶏の煮込みやマスの唐揚げは、やはり きれいに平らげられていた。

 中東料理は、世界三大美食のうちの2つ・本場フランス料理(こてこて)よりも、トルコ料理(訪れた時 は羊&チーズ攻め)よりも、おいしく感じられた。個人的に3カ国選ぶなら、今のところ「タイ・ペルー・ 中東(1カ国選ぶならレバノン)」だ。

 ただ、現地民は、あれをお酒と味わえない。勿体ない話である。



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