山口さんの「さまよえるラム」−12

中東のお肉は食べられなかった紀行?


●アカバ城の夕日

 パルミラでは、郊外の高台にあるアカバ城からの夕日が美しいと評判だ。一度ホテルに引きあげた後、5 $でオプショナルツアーが出ることになった。

 1時間後。風呂に入って時間ぎりぎりに行くと、もうお客は全員集まっていた。みんな、かなり時間に正 確だなあ、今後は5分前を目標にしておこう。急いで空いた席に座ったのだが、バスはまだ出ない。

「あと一人、待って下さい」

 そこに、息せき切って血相変えて現れたのは、なんと添乗員のアライさんだった。

「ごめんなさい、ごめんなさい!寝過ごしました!」

 部屋に入るなりバタンキューで、電話で飛び起きて駆けつけたのだった。

 しかしこれには、さもありなんと同情させられた。昨夜は殆ど徹夜で、今日は1日炎天下で引率役。まだ よくお互い見知らぬ34人をまとめるのは、大変だっただろう。

 せめて彼女に余計な心配をかけぬよう、良いお客さんでいよう。その後の現実はさておき、心の中ではそ う深く願った。そしてこれがわたしの知る限り、優良添乗員アライさんがミスった唯一の出来事である。

 さて、バスに揺られて30分弱。アカバ城は、急勾配の丘の上に建つ茶色いレンガ造りの建物で、周りに は堀が巡らせた要塞だ。入城は有料である。

「えーなに? 入城は有料なの?」
「オプショナルツアー費から出ないのかあ」


 きっと安い(100円しない?)のだろうが、結局入城者はいなかった。こうして今日も、侵略者を許さ ぬ難攻不落伝説は、安上がりに守られたのである。

 やがて日没が近づいた。西方はるか彼方の地平線の上で、太陽は赤い火の玉となり、東側に見える市街地 を染めた。ついさっきラクダで闊歩した列柱道路の白い柱も、今は明るいオレンジ色。城の上の月だけが、 真珠のように白く光っている。

 ぐるりと地平線を見渡せるこの場所は、広々とした空間いっぱいに刻々と変わる色彩が溢れ、眺めは最高 だ。しかし、つまりは吹きっさらしなので、風が非常に強い。そのまま、ジュリーの「TOKIO」の撮影 ができる。

 だが、寒さに耐え、崖下に吹き飛ばさる危険を犯してまで見た日没は、その分だけ更に美しく、目の奥に 焼きつけられていた。



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